今年3月、鉄道事業者のJR西日本が、世界初となる3Dプリントによる駅舎建設を計画していることを紹介しました。そしてこの度、その技術のスピード感を証明するかのように、和歌山県有田市のJR紀勢本線・初島駅にその駅舎が、7月22日までにすでに設置完了しました。
まず最初に明確にしておくべき点として、構造物自体が3Dプリントされたわけではありません。実際には、鉄筋コンクリートを流し込むための型枠が3Dプリントされたのです。とはいえ、この方法により、従来のコンクリート打設技術よりも遥かに短時間で、曲線やレリーフなど複雑な形状を実現することが可能になっています。
完成した駅舎はややシンプルな外観ながら、ドーム型の屋根やクラシカルな装飾が特徴的で、スタイリッシュな印象を与えています。正面には特産品である「みかん」を模したコンクリート製の装飾があり、側面には同じく名産のタチウオ(太刀魚)を象ったレリーフも施されています。
市場調査によると、3Dプリンティング業界は今後も成長が期待されており、2025年から2032年にかけて年平均成長率(CAGR)20.4%で推移すると見込まれています。2025年の市場規模は229.5億米ドルで、2032年には約842.2億米ドルに達する予測です。成長の背景には、医療、自動車、航空宇宙といった様々な業界での導入拡大があります。
JR西日本は、特に初島駅のような地方の無人駅を中心に、老朽化した駅舎の代替手段としてこの技術の活用を目指しています。ただし、線路沿いの工事は非常に困難であり、作業可能な時間は始発列車と終電列車の間の約6時間に限られています。もし従来の工法で駅舎を建設していた場合、1〜2か月かかっていたと考えられます。
しかし3Dプリンティングを活用することで、パーツごとに分けた型枠を7日間かけて敷地外で製造し、それらを4台のトラックで現地に運び、2時間で組み立てることができました。実際の作業時間は、トラックの入れ替えに約45分かかったため、実質的な建設作業はわずか1時間15分程度でした。
新しい駅舎の面積は約9.9平方メートル(約3坪)で、自動券売機、改札機、2人掛けのベンチが設置されています。コンクリートの成形を担当したのは大阪の企業「セレンディクス」で、同社は3Dプリント住宅の開発でも知られています。
このように、初島駅の駅舎建設が3Dプリンティングで成功したことは、JR西日本が今後も老朽インフラの刷新にこの技術を積極的に活用することを示唆しています。この新しい工法は、費用と時間の両面で大きなメリットがあるだけでなく、デザイン性にも優れている点が注目されます。

