デザイン性の高いロサンゼルスの抹茶専門カフェでは、SNSでの人気を背景に世界的な供給不足が続く中でも、日本産の抹茶が丁寧に点てられている。
今年ハリウッド大通りにオープンした「Kettl Tea」では、メニューにある25種類の抹茶のうち21種類が品切れ中だと、創業者のザック・マンガン氏はAFPに語った。
「お客様に『お目当ての商品がありません』と伝えるのが本当に大変なんです」と彼は話す。
抹茶は、草のような深い香り、鮮やかな色味、そして覚醒作用のある成分で人気を集めており、マンガン氏によれば「この10年で爆発的に人気が高まり、特にここ2〜3年でその勢いはさらに加速した」とのこと。
現在では抹茶は、「西洋文化における象徴的存在」となっており、アイスクリームのフレーバーからスターバックスのメニューにまでその姿を見かけるようになった。
その結果、抹茶の市場規模はわずか1年でほぼ倍増したとマンガン氏は語る。
「どんなに仕入れを頑張っても、もう市場に在庫がないんです。」
数千キロ離れた東京・狭山で、15代にわたって続くお茶屋を営む奥冨正広さんも、世界的な需要に対応しきれず苦しんでいる。
「もうこれ以上抹茶の注文は受けられない、とウェブサイトに掲載しました」と語る奥冨さん。
抹茶づくりは手間のかかる作業だ。原料となる葉(碾茶=てんちゃ)は、収穫前に数週間かけて日光を遮って育てられ、風味と栄養素が凝縮される。収穫後は手作業で葉脈を取り除き、乾燥させたうえで専用の機械で非常に細かく挽かれる。
「抹茶を点てるには、長年の訓練が必要です。機械、人手、資金が求められる長期的な取り組みです」と奥冨さんは語る。
「世界中の人々が抹茶に興味を持ってくれるのは嬉しいことです。でも短期的には脅威で、正直言って対応しきれていません。」
この“抹茶フィーバー”を牽引しているのが、YouTube登録者60万人超のインフルエンサー、アンディ・エラさん(23歳/フランス出身)。彼女は自身の抹茶ブランドを立ち上げ、東京・原宿でポップアップストアをオープン。ピンクの店頭には、いちご味やホワイトチョコ味の抹茶ドリンクを買うために、写真撮影を楽しむファンが長蛇の列を作っていた。
「抹茶って、本当に可愛いんです」とエラさんはAFPに語った。
2023年11月に創業した彼女のブランドは、三重県で製造されており、これまでに13万3,000本以上を販売。スタッフも現在は8人に増えた。
「注文の勢いはまったく衰えていません」と彼女は言う。
2024年には、日本の緑茶輸出総量8,798トンのうち、抹茶が半分以上を占めたと農林水産省のデータは示しており、これは10年前の2倍以上。
東京・築地の観光エリアに店舗を構える老舗「寿月堂」では、増え続ける需要に対応すべく在庫管理に力を入れている。
「転売業者と疑わしい方への大量販売は控えていますが、購入制限は基本的に設けていません」と店長の西木田重仁さんは語る。
「ここ2〜3年で抹茶ブームは一層加熱していて、お客様はSNSで見た点て方を自分で試してみたいと思って来店されます。」
関税の影響も懸念
49歳のオーストラリア人観光客アニタ・ジョーダンさんは、「**うちの子どもたち、抹茶に夢中なんです。『最高のやつを見つけてこい』って指示されちゃって(笑)」**と話す。
数十億ドル規模に成長した抹茶市場だが、今後は**アメリカ・トランプ大統領による日本製品への関税(現在10%、今後24%に引き上げ予定)**の影響を受ける可能性もある。
「価格を上げざるを得ませんが、軽い気持ちではやっていません」とマンガン氏。ただし今のところ、需要が落ちる様子は見られない。
「お客様は『抹茶がなくなる前に買いたい』という姿勢です。」
ロサンゼルスのKettl Teaでは、抹茶はミルクと混ぜてラテにしたり、または茶碗で手点てしてストレートで味わうスタイルが選ばれている。
価格は安くなく、手点ての一杯で10ドル以上、自宅用に抹茶粉20グラム(約0.7オンス)を買うと、25〜150ドルという高価格帯にもなる。
日本政府は規模拡大を農家に要請しているが…
政府はコスト削減のため、茶農家に対して生産規模の拡大を呼びかけているが、それにより品質が損なわれる懸念もあり、「地方の小さな集落では現実的に不可能です」と奥冨さんは指摘する。
「新しい担い手を育てるには時間がかかります。場当たり的にはできません。」

