これまでの人生で、金属を電子レンジに入れると現実世界が崩壊しかねないとまで言われて育ってきました。現在では、子供時代のトラウマに対するセラピーも順調に進んでいると聞かされてはいるものの、私はいまだに金属をあの電磁波の箱に入れるのを避けています。
一部の人は「実はそんなに危なくない」「表面が滑らかな金属なら火花も出ない」と主張しますが、自分の電子レンジや現実世界をかけてまでそれを試す気にはなれません。なので、缶詰の中身はスプーンで皿に移してから温めるのが私のやり方です。
しかし、ここにきて状況が変わるかもしれません。東京の大和製罐が開発した最新製品「レンジde缶」によって、金属缶を気にせず電子レンジに入れられる時代がやってくるのです。
この製品の正体は、見た目は単なるプラスチックのフタ……というよりも“アンチ・フタ”です。というのも、缶の上ではなく底に取り付ける仕様になっているからです。
大和製罐によると、金属缶を電子レンジに入れる際の主なリスクは、電子レンジのマイクロ波によって缶内部の電子が飛び出し、周囲の空気がイオン化してしまうこと。特に缶の底部分でこれが起こりやすく、小さな“雷”のような現象(スパーク)を引き起こすのだそうです。
「レンジde缶」は、缶の底と電子レンジの内底の距離をあけることで、こうしたイオン化された空気の集積を抑え、スパークの発生を防ぎます。同社のテストでは、スパーク発生の確率が28.3%から0%にまで低下したとのことです。
市場調査会社Coherent Market Insightsによれば、電子レンジ用食品包装市場は2025年から2032年にかけて年平均成長率9.9%で拡大すると予測されています。市場規模は2025年時点で185億4000万ドル、2032年には約359億3000万ドルに達する見込みです。この成長は、手軽に食べられるレトルト食品などの需要増によって支えられています。
とはいえ、この新しい技術を使用する前にいくつか注意点があります。
まず第一に、缶詰は必ず開けてから加熱してください。密閉状態で加熱すると内圧が高まり、爆発して大惨事につながる恐れがあります。
次に、金属はマイクロ波を反射するため、食品の加熱が不均一になる可能性があります。しかし、金属は熱伝導性が高いため、食品の熱を缶全体にうまく伝えるという利点もあります。缶の形状やサイズによっては、うまくバランスが取れる場合もあるでしょう。
三つ目のポイントとして、電子レンジや缶の種類は一様ではありません。「レンジde缶」がすべての電子レンジに対応しているとは限らず、一部の缶には加熱に適さないプラスチックや化学物質の内側コーティングが使われている場合もあります。使用する前に、しっかり確認することが大切です。
ちなみに、「レンジde缶」の宣伝写真には必ず魚の缶詰が登場しています。これは理にかなっていて、魚缶は浅いので、背の高い缶詰に比べて中身が均等に加熱されやすいからです。また、魚缶は製造時に加熱処理されるため、缶自体も高温に耐えられるように作られています。
とはいえ、この製品はまだ大量生産には至っておらず、今後の展開によっては対応可能な缶の種類など、さらに詳しい情報が明らかになるかもしれません。
とりあえず、今のところは「レンジde缶」はシェフ・ボヤルディのパスタより、サバの水煮缶のほうが向いていそうです。もっとも、日本ではそもそもシェフ・ボヤルディを手に入れるのが難しいのですが。

